原文
気質 本郡一般の氣質は概して温和質朴なりと雖も、地方によりて一様ならず。 舊山保田莊(八幡・安諦・城山・五)全部、 舊石垣莊中山間の地(五西月・岩倉・生石・石垣の一部・井に)は 一般に愿撲にして粗野なれども、能く農耕採樵を勤めて遊惰ならず。 質素にして奮慣を重んじ、冠婚葬祭其他万事一に舊慣に尊ぶ。 又肩書を喜び、 故らに名譽を博せんとするは一般の氣風なるが如く、 多少執拗頑僻にして且つ利己主義なるが爲に 郷黨の小事에도競争軋轢を生し易く、屢難問題を惹起することあり。 宗教にしては種々の迷信を混へたり。 舊石垣莊の他の部分(鳥屋城、御霊及生石、石垣の一部分)は前者と其趣を異にし、寧ろ藤並田殿に近似し、 湯淺箕嶋等に比すれは遙かに質實なれとも、中流以下のものは勤儉の風に乏しく、遊民の多きこと郡中第一に居る。 中流以上のものは概して質實にして而も活氣あり。 一般に快豁にして諧謔を好み、比較的執拗ならず。 田殿藤並は又少し状態を異にし、長谷田角、大賀等の山地を除いては一般純朴の風を缺き、殊に田殿は人々悧巧にして多少外観を街ふの傾向を有し、食物に比して家屋及衣服を華美にするの風あり。 藤並は寧ろ石垣と稍相似たる點多きが如し。 宮原、糸我、保田は勤儉力行の美風に富めども人情稍軽薄なり。 箕嶋町は部落によりて 農漁商等各其職を異にせるを以て、 気風も一様ならず、箕嶋北湊は譎詐軽薄なるもの多く、 概して敦厚ならず。野・山地の農民及小豆嶋の漁民は質朴淳良なれども、 田、栖原と共に、其漁民部落は自ら粗野なるを免れず。 且つ貯蓄の念一般に缺如せり。全町を通して有せる美點は快豁にして元氣に富み、常に活動的なること是なり。 湯淺町湯淺は全く樸實の風を缺き、輕佻浮薄にして真面目ならず。 一般公共の念に乏しく且つ責任を避くるの風あり。 其商業者の中には信用を重んせずして、懸引を以て最上の商略となし、 眼前の小利に營々として、 遠大の慮をなすことなく、 猥りに一時の暴利を貪らんとするもの多し。 又其漁民は稍質朴なる代りに頑冥にして粗野、 徒らに舊習を墨守して何等の改善を謀らず。 其日の所得に口を糊して貧困に甘んじ、 少しく餘裕あれは酒色又は賭博に投して惜まず、 絶えて貯蓄の念なし。 然れども近時漸く其欠点を自覺するもの多くなり 來れるが如き觀あるは喜ぶべし。 大字 山田、青木、別所の如きは氣風自から湯淺と異なり。 謹儉質朴にして一般に比較的真面目なるが如し。 廣川以南の地は古來富豪案多く、風俗習慣他の村落と稍其趣を異にす。 概して上品にして萬事体裁を貴ひ儀式を重んずるの風あり。 然れとも北有田地方に比して活氣乏し且つ利巳的傾向強く互に相排濟するの風あり、 闔村常に圓満を缺けるが如し。 中產以下のものは古来大家に出入して其恩恵を蒙る習慣ありし爲にや一体に依頼心強し。 概して勤儉の風あれども、細民の風儀は頗る宜しからざるものあり。 南廣村は土地割合に廣く職業は亦一様ならす。 隨ふてその気風も亦土地に より多少異なれり。 然れども地湯淺及廣に近きを以て、一般に其影響を受けて純朴ならず。 津木谷は一の別天地をなし、古來極めて質朴なりしが、 近時湯浅との交通頻繁を加ふると共に、 悪風に感染するもの稍多く、其氣風の上に一大變化を来しつつありといふ。
現代語訳
有田郡全体の気質は、おおむね温和で質朴ですが、地域によって一様ではありません。
旧山保田庄(八幡・安諦・城山・五)全体と、旧石垣庄の中山間地域(五西月・岩倉・生石・石垣の一部・井に)は、一般的に誠実ですが粗野でありながら、よく農耕や伐採に勤勉で、怠けることがありません。
質素で倹約を重んじ、冠婚葬祭その他すべての事柄で古い習慣を尊重します。また肩書を喜び、わざと名誉を得ようとするのが一般的な気風のようで、多少頑固で偏屈かつ利己主義であるため、地域の小さなことでも競争や軋轢が生じやすく、しばしば問題を引き起こすことがあります。宗教に関してはさまざまな迷信が混ざっています。
旧石垣庄の他の部分(鳥屋城、御霊及び生石、石垣の一部分)は前者とは趣が異なり、むしろ藤並や田殿に近く、湯浅や箕島などと比べると遥かに質実ですが、中流以下の人々は勤倹の風が乏しく、無職の人が郡内で最も多いです。中流以上の人は概して質実でかつ活気があります。一般的に快活で冗談を好み、比較的頑固ではありません。
田殿と藤並はまた少し状態が異なり、長谷田角、大賀などの山地を除いては一般的に純朴な風習がなく、特に田殿は人々が利口で多少外見を飾る傾向があり、食物に比べて家屋や衣服を華美にする風習があります。
藤並はむしろ石垣とやや似た点が多いようです。宮原、糸我、保田は勤倹力行の美風に富んでいますが、人情はやや軽薄です。
箕島町は地区によって農・漁・商など職業が異なるため、気風も一様ではなく、箕島北湊は狡猾で軽薄な人が多く、概して温厚ではありません。野・山地の農民及び小豆島の漁民は質朴で善良ですが、田、栖原と同様に、その漁民地区は自ら粗野であることを免れません。そして貯蓄の考えが一般的に欠如しています。町全体を通じてある美点は、快活で元気に富み、常に活動的であることです。
湯浅町湯浅は全く朴実の風がなく、軽薄で真面目ではありません。一般的に公共の意識が乏しく、かつ責任を避ける風習があります。その商業者の中には信用を重んじず、駆け引きをもって最上の商略とし、眼前の小さな利益にこだわり、遠大な考えを持たず、みだりに一時的な暴利を貪ろうとする人が多いです。またその漁民はやや質朴な代わりに頑迷で粗野であり、むやみに旧習を固守して何らの改善を図りません。その日の所得で糊口をしのぎ、貧困に甘んじ、少しばかり余裕があれば酒色や賭博に費やすことを惜しまず、まったく貯蓄の考えがありません。しかしながら最近になって徐々にその欠点を自覚する人が多くなってきたような観があるのは喜ぶべきです。大字山田、青木、別所などは気風が自然と湯浅とは異なり、謹倹質朴で一般的に比較的真面目なようです。
広川以南の地域は古来富豪が多く、風俗習慣が他の村落とはやや趣が異なります。概して上品で万事体裁を重んじ儀式を尊ぶ風習があります。しかし北有田地方に比べて活気が乏しく、かつ利己的傾向が強く互いに排斥し合う風習があり、村全体が常に円満を欠いているようです。中産以下の人々は古来大家に出入りしてその恩恵を受ける習慣があったためか、全体的に依頼心が強いです。概して勤倹の風習はありますが、庶民の風儀は非常に良くないものがあります。
南広村は土地が比較的広く職業も一様ではないため、その気風もまた土地によって多少異なります。しかしながら湯浅及び広に近いため、一般的にその影響を受けて純朴ではありません。津木谷は一つの別天地をなしており、古来極めて質朴でしたが、最近湯浅との交通が頻繁になるにつれて、悪風に感染する人がやや多くなり、その気風の上に一大変化を来しつつあると言います。
管理人の所感
湯浅の所を読んでますとボロカスで吹き出しました。ほんまかいな??てな感じで・・・しかし当たってるかも??
昔は地域地域のコミュニティーが優先して狭い有田郡と言えども閉鎖的で気質も変わってくる(違う)のが面白く現在では考えられませんね。
管理者 籔野博孝